五反田で試写の後、ランチ。
この日、どこで何を食べるかについては、試写の場所と時間をスケジュール帳に書き込んだ1週間以上前から、すでに私の中では決定していた。それはグリルエフのタンシチューさ。
この決定を阻止すべく、別の店を提案する不遜な輩がもしも現れたなら、容赦なく張り倒すぐらいの意気込みで、JR五反田駅に降り立った。この日、私が殺気みなぎっているように見えたとすれば、頭の中でタンシチューがグラグラと煮えたぎっていたからに他ならない。
私がタンシチューの素晴らしさに開眼したのは、この店で食べてからだ。それまではタンといえば、焼肉屋の「タン塩」しか知らなかった。逆上ること6、7年前のある日、やはり試写の後にこの店でタンシチューをご馳走になった。どこの配給会社のどなただったのか、すっかり忘れてしまったが、このとろけるように柔らかいタンシチューに文字どおり舌がとろけてしまった体験だけは、いつまでも忘れることができなかった。以来、自腹・他腹でいろいろ試したが、どれも今ひとつピンとこない。記憶の彼方のグリルエフのタンシチューの良さは、そのボリューム。大きなタンが2枚、焦げついたような独特の風味のデミグラスソースに浸って、デーンと皿に鎮座している。それをナイフとフォークで切って口に運ぶと、たちまち舌の上でトロトロと溶けてしまう醍醐味といったら、ああ・・・。
試写が終わり、幸いなことに誰一人私に逆らう者もなく、蔦に覆われた古風でロマンチックな洋食屋グリルエフに直行することができた。ついに、あのタンシチューに再会がかなう! だが、予想だにしなかった悲劇が、私を待ち受けていたのだった。
「いらっしゃいませ」と注文を聞きに来た可憐なウェイトレスに、私は「タンシチュー!」と明るく元気に答えた。すると、彼女は「今は、やっていないんです・・・」という耳を疑うような言葉を、タンが絡んだようなカスレ声で返してきたではないか!
同行した他の全員は、牛タンを扱わないことをあたかも当然のようにタンタンと受け止めていたが、新聞もろくすっぽ読まず、昨今の流通事情に疎い私には、なぜタンシチューをやめてしまったのか、まるで理解できない。でも、ないものはないのだ。気を取り直し、一同に倣ってビーフシチューを注文。もちろん、こちらも牛肉をとろけるように煮込んであり、独特の焦げついたようなデミグラスソースの風味も存分に堪能できた。しかし、何かが違う!
←これが問題のビーフシチュー 2,000円也
ボリュームの点で物足りなかった? いや、そればかりではない。最大の元凶は、今も奥歯に挟まったままの牛肉のカスだ!
脂肪分の多いタンでは絶対に起こり得ない、奥歯にはさまったままのビーフシチューの牛肉の繊維が、口の中で妙な異物感、いや果たせなかったタンシチューへの断ち難い未練を、いつまでもいつまでもタラタラとかき立てているのだ!
←タン、タンと連呼したついでに、今日から首に巻いている〈タンタン〉のマフラー。私の冬の定番です。急に寒くなりましたが、風邪をひかぬよう、ご自愛くださいませ♪
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