読書しない男
仕事帰りの電車の中でのこと。鞄に入れていたはずの文庫本がない! ランチタイムに、コートのポケットへ突っ込んで、ラーメンを食べに行ったことを思い出した。その時、店に忘れたのか、ポケットから落ちたのか。
新宿からホームタウン青梅までの直通特快に乗れた。年の瀬で、ガラガラ。すぐ座れた。でも、ちっとも嬉しくない。終点青梅までの1時間10分をどう過ごせばよいのやら?!
とりあえず車内の人々を観察することにした。いつもは本を読み、あらぬことを考え、また本を読む。周囲に誰がいようが、眼中になかった。
見回してみて、残念ながら長時間の観察に耐えうる人物はいなかった。みんな普通の人達なのだから、当たり前。どちらかと言えば、年配の男性に見る甲斐が。味があって、抱え込んでいる「人生」への想像が膨らむ。若い男性や熟年の女性は、その逆。私の観察眼では月並みなパターンに落ち着いてしまう。見ていて一番楽しいのは若くて可憐な女性なのだろうが、悔しいことに一人も該当者が乗り合わせていなかった。
途中の駅で面白そうな人が乗ってこないかと期待した。身体の一部が過剰な人とか。目が三つあったり、足が九本あったり、文字どおり四十八手の持ち主だったり。それがダメなら、せめて「そっくりさん」。有名芸能人似ではなく、自分だけが心の中でクスクス笑えるマイナーポエット似がいい。チェコの指揮者イルジー・ビエロフラーベク似とか、昭和初期の小説家の嘉村礒多似とか。
だが、そんな人も現れず、すっかり退屈してしまった。網棚の上に並ぶ広告を見上げた。私は食い意地が張っているので、〈永谷園のお茶漬け海苔〉がやたら目につく。華奢な女性の手が差し出すお茶漬けのポスター。焼いた餅に熱湯をかけ、その上からお茶漬け海苔を散らした「何ちゃって雑煮」をよく食べる。ただし、永谷園のものは、ずっとご無沙汰。今でも『東海道五十三次』のカードが入っているのだろうか?
とりとめもないことを考えていたら、車内に食べ物の匂いが漂ってきた。メンチカツだ! 炒めたタマネギが肉の中で蒸れたような独特の臭気で、すぐそれとわかる。吉祥寺の駅を過ぎたところなので、TV・雑誌でよく紹介されている行列のできる肉屋のものに違いない。並ぶのが嫌なので買ったことはないが、急に食べてみたくなった。近々映画を観た帰りにでも立ち寄ってみよう。その場で揚げたてのアツアツを頬張った方が、美味いに決まっている。しかし、メンチカツを立ったまま齧りつく中年男というのも、様にならないというか、みっともないかもしれない。いっそのこと、メンチカツを持って井の頭公園へ出向こう。冬場だと寒くて、すぐ冷めてしまう。買ったら走らないと。カップルどもを追い散らし、池のほとりの眺めと陽当たりが一番良好なベンチを占領して、息を切らせながらパクつくのだ・・・・。
またまた、とりとめのないことを考えていたら、とてつもなく空腹を覚えた。退屈も頂点に達していたので、やむを得ず国分寺で途中下車。
真っ先に古本屋を訪れ、店頭の均一本の棚から数冊の文庫本を抜き出すと、レジに直行。それから夜道を彷徨い、メンチカツを売っている肉屋を探した。どこにも見当たらない。空腹のあまり、衝動的に手近な中華料理屋へ飛び込んでしまった。
昼にラーメンを食べたばかりだった。せめてメンチカツ定食でもと思うが、メニューにない。仕方なくかた焼きそばとビールを注文。さらに餃子まで追加。
本を読むことでしか時間を潰す術を持たぬ我が身を嘆いた。携帯電話をいじくって遊ぶという手もあったが、ろくろく機能も知らず、メールも同僚との仕事上のやり取りに限定されている。電車の中でニヤニヤと楽しそうにメールしている中年男をよく見かけるが、あれは馴染みのキャバクラ嬢もしく風俗嬢がお相手に違いない。ああ、何てうらやましいんだ!資金のない私には無縁の領域。
そんな私だって、メル友が欲しい。来年こそ、これぞと見込んだ人物に携帯電話のアドレスを教えて、1日10回くらいメール交換をしてみたい。(^m^ )や(≧∇≦)みたいな顔文字を駆使して。でも、このブログにさえコメントを書き込んでくれる者がいなかったではないか。10月にリニューアルした際、半月ほどコメントを受け付けてみた。それなのに書き込みは、S社N氏の1件だけ。待てど暮らせど、コメントは来なかった。「いつも読んでます」「更新が楽しみです」等の、拙い文章を書き続ける励みになるようなフレンドリーな一言が欲しかったのに。私だってそんな心の友へ、即座にお礼の返答をしたことだろう。「これからもあなただけのために、せっせと更新します♪」と。
深く傷ついた私は心を閉ざし、コメントを受け付けない設定に変更した。永遠にこのままだ。私の孤独が永遠に続くように。
かた焼きそばはどこまでも堅く、口中や喉に突き刺さった。どうしてこんなものを頼んだのだろう? ビールで無理やり流し込んだが、一向に減る気配がない。そして真冬に独りで飲むビールはどこまでも苦く、身体を芯から凍えさせた。






































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