藪蕎麦の夏
休日。久々に神保町へ。
岩波ホールで『紙屋悦子の青春』を観ようと思ったが、長引く夏風邪のせいで、やたらと咳が出る。急遽、古書店めぐりに変更した。
空はどんより曇っていて、時おり小雨がパラつく。蒸し暑いのを我慢すれば、自分には絶好の散歩日和。近頃、真夏の直射日光を浴びると、腕にブツブツと湿疹が。体が弱っているせいなのか、映画館というお天道様と縁のない職業に長年従事しているせいなのか、日光アレルギーになってしまったみたい。
我が古書店めぐりの鉄則は、「欲しい本を見つけても慌てて買わないこと」。稀覯本はともかく、状態や初版・再版に拘らなければ、別の店で同じ本がもっと安く手に入る場合があるから。店と棚の場所を憶えておき、後でまた来る。リスクとしては、後回しにしているうちに誰かに買われてしまう、もしくは店も棚も忘れてしまう。私の場合はもっぱら後者で、「あの本、どこで見たっけ?」とウロウロ彷徨ってばかり。
今回もあちこち見比べて、岩波文庫の『完訳アンデルセン童話集(旧版)』全10巻一揃えを800円でゲット。3千円の値が付いていた店もあったので、大いに得した気分。他に『小熊秀雄詩集』を1,500円、『現代漫画 馬場のぼる集』を840円で入手。これらも一応他店をのぞいて、より安いことを確認してから購入。
ひととおり本を買ったら、思い出したようにおなかが減ってきた。よし、奮発して神田の老舗でランチでも。淡路町にある創業明治40年の洋食屋松栄亭で、かの夏目漱石も食べたという〈洋風かき揚げ〉に〈ハヤシライス〉か〈オムライス〉をセットにするつもりで行ってみたら、あれま、「臨時休業」の貼紙が。次善の策として、老舗では上をゆく創業明治13年の神田藪蕎麦へ。この店には、まだ入ったことがない。料亭みたいな外観で、少々敷居が高かったから。
テレビの年越し番組か何かで百人は収容できると紹介されていた広い店内は、オジさんワールド。2時近かったこともあり、待たされずにすんなり座れた。ここのような蕎麦屋の歴史を体現している店では、蕎麦に酒肴一品が定石だろう。見回せば、他のオジさん達も皆そうしている。〈せいろうそば〉630円に〈鴨ロース〉630円、生ビール525円を注文。まあまあの値段だが、どれも驚くほど量は少なく、せっかく浮かした本代がパーになった気分。
それでも古書店めぐりの合間にのんびり蕎麦を手繰るのは、ちょっとした「大人の休日」。本と蕎麦で暮れてゆく夏の一日は、私にとって南の島でのバカンスに等しい。ビールのグラス片手に読む本が『アンデルセン童話集』なのは、どうかと思うが。













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