ピンクの象
仕事帰りや休日出勤の前、よく西荻窪駅で途中下車する。カジュアルなダウンタウン風情をキープしつつ、両隣の吉祥寺や荻窪より、ずっと通行人密度が薄くて散歩向き。古本屋も多いし、商店街のアーケードにぶら下がったランドマーク的なピンクの象もおっとりと可愛らしい。街の空気にマイナーポエットな慎ましさの感じられるところが気に入っている。
この街を訪れるようになったのは、最近のこと。20数年前は中央線の各駅ごとに映画館があったものだが、西荻だけは訪れた記憶がない。一度だけ飲みに誘われて降りたぐらいか。ごく若い頃のことで、N社でポルノ映画のシナリオの仕事をもらった際、この地在住の企画部員の方がビルの一角のバーみたいなところに連れて行ってくれたのだ。
当時の私は酒をまったく嗜まず、この店でも澄まし顔でハーブティーばかり飲んでいた。誘った方も、さぞシラけたことだろう。そのうちカウンターにいた中年の美人ママが自分も酒を呷りながら、ネチネチと私に絡んできた。細かくは憶えていないが、ポルノを書くには私が「あまりにも汚れを知らな過ぎる」ということらしい。
誰も信じてくれないだろうが、若き日の私のあだ名は
王子様
もしくは
麻呂
。さぞかし浮世離れした貴族的オーラを周囲に撒き散らす美少年だったに違いない。「汚れ命」の大人社会の住民からすると、いじめたくなるタイプだ。恋やつれした演歌歌手みたいだった美人ママの、「一丁、揉んでやるか
」気分も誘発。辟易した私は早々に退却。西荻まで嫌いになって、久しく寄りつかなかった。
歳月を経て、今や「王子様」の面影はなく、かといって「王様」にもなれず。順調に汚れを知り得たかどうかわからないが、今の私ならあのママもきっと受け入れてくれるだろう。酔っ払って帰った夜、そう思いたって途中下車してみたが、場所を憶えていない。捜しているうちに遅くまで開いている古本屋の存在を知って、西荻への寄り道が始まった。
この日は夕方から仕事。せっかくなので、その前に降りてみた。小雨混じりの肌寒い午後で、街は「ここって東京23区?」と思えるくらい人影がまばら。川沿いをぶらぶら歩き、ひっそり閑とした善福寺公園に到着。貸し切り状態で散策していたら、すっかり身体が冷え切ってしまい、慌てて駅前に引き返すと、甘味処でお汁粉なんぞを食べて温まった。
その後、お決まりの古本屋巡り。『東京人』のバックナンバーを数冊、マルセル・エーメと海野十三の文庫本、ずっと探していた滝田ゆう『下駄の向くまま 新東京百景』、更に招布(まねぎ)という、FURUHONマークの旗をくわえたツバメのイラストが可憐なペナントめいた飾り物まで購入。
アンティーク雑貨屋も多く、懐かしのドリンキングバードを発見。ついつい買ってしまった。結局、総計7千円近くの散財。次回の寄り道の際は、この鳥に似合うレトロなガラスのコップを見つけたい。ああ、こんなことがバレたら、またまたあの美人ママにいじめられる・・・。
子供の頃、近所の中華そば屋のショーウインドーにラーメンやチャーハンのサンプルと並んで飾ってあり、飽かずに眺め続けたっけ↑














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