あふれる熱い脂
休日は映画を観るか、図書館に行くか、ひたすら歩くかのいずれか。やがて訪れるであろう老境の日々も、おそらく今とそう変りあるまい。
この日はJR武蔵小金井駅で降りて、野川沿いを歩いた。武蔵野公園、野川公園を抜けて深大寺に至る10キロばかりのコース。
天気は快晴。散歩は晴れた日が良い。陽が陰ると、心も陰る。独り暗い空に抱かれて彷徨えば、想いはつらく悲しい過去、見通しの立たぬ未来へ駆け巡り、気が滅入るばかり。
そう言えば、初めて野川を歩いたのは、学生の頃、精神病院の介護のアルバイトに応募した時だった。病院は川沿いにひっそりと建っていた。面談即決で落とされ、暮れ方の沈鬱な岸辺を悄然と帰った記憶がある。
意外かもしれないが、私の本望は世のため人のために生きることだ。その後、転職を考えるたびに病院だけでなく老人ホームや障害者施設の介護の仕事を志願したが、どこも相手にしてもらえなかった。脆弱な外見、浮草稼業だらけの職歴を軽んじられたこともあったのだろう。
話し相手もなく、黙々と歩いていると、棘のある蔦のように「こんなはずではなかった自分」が絡んできて、一歩も進めなくなる。そんな時はアルコールの力を借りる。泥酔するわけではない。コンビニの百数十円の発泡酒で事足りる。歩きながら飲んでいると、自分が幸福でも不幸でもないと思えて、ようやく心が静まる。
だが、この日は雲ひとつない秋空。燦々と輝く太陽だけが友だ。どんな涙もたちまち乾く。酒なぞいらない。大手を振って、元気いっぱいに歩いた。
いつしか深大寺に到着。蕎麦屋が軒を並べている。迷いつつ茶店風の一軒に入ってみた。840円の粗引き蕎麦を注文したら、田舎風と言うか、かた焼きソバみたいなボソボソとした歯応え。やっとのことで飲み下した。その後、境内の『鬼太郎茶屋』に寄って、好物のレトルトカレー〈鬼太郎の好きなビーフカリー〉中辛口630円也(値段が高いだけあって、美味い!)を買い求め、バスで吉祥寺に向かった。
↑『鬼太郎茶屋』の店先に水木しげるの故郷・鳥取ナンバーの妖怪カーが停車中。目玉親父のヘッドライトが可愛いぜ♪
吉祥寺に行った際に必ず立ち寄る乾物屋で、これまた好物の揚げグリーンピースを3袋購入。すぐ近くで吉祥寺名物として名高い肉屋サトウの松坂牛入りメンチカツが、いい匂いを漂わせている。店頭の行列も30人程度だったので、意を決して並んでみた。それでも20分は待たされたが。5個以上だと180円が140円になるというので、食べ切れもしないのに5個も買う。
持ち帰って食べるつもりだったが、せっかくだから揚げ立てのアツアツも味わってみたい。カラリと揚がっているように見えたので、歩きながら一口齧ってみて大後悔。大量の熱い肉汁がドクドクと堰を切って溢れ出てきたではないか。袋に戻そうにも、他のメンチに汁が回って、ドロドロになりそう。仕方なく雑居ビルの中に飛び込み、人目を忍んで丸々1個を立ち食いした。舌は火傷し、口の回りと手は脂でベトベトのギトギト。ちょうどポケットティッシュが切れたところだったので、途方に暮れた。
脂まみれで身動き取れない私。脂は涙のように乾かない。「こんなはずではなかった自分」が、またムクムクと頭をもたげてきた。









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